コラム

自治体・観光のSNS運用|住民UGCと3段階発信で来訪動機をつくる

最終更新日 2026年9月25日(Fri)

記事作成日 2026年9月25日(Fri)

絶景もイベント告知も出している。フォロワーも増えた。それでも宿泊も消費も動かない。告知は情報であって、来訪動機ではないからです。動機をつくるのは住民と観光客の体験。KPIはフォロワー数ではなく来訪数・宿泊数・消費額に置き、UGCはDM許諾からクレジット表記の2段フローで扱います。この記事では、発信軸の分け方、鉄板コンテンツ7型、タビマエ・タビナカ・タビアトの3段階発信、そして公平性と政治的中立性という自治体特有の制約までを、投稿前のチェックに使える形で整理しました。

目次

執筆:リデル株式会社 SNSマーケティングチーム
SNS・コミュニティマーケティング専門企業。上場企業を含む7,000社超の支援実績をもとに、
SNS運用・インフルエンサー施策の現場ナレッジを発信しています。

告知は出ているのに、来訪が動かない

絶景も出している。イベント告知も欠かさず出している。フォロワーも増えている。それでも来訪数が動かない。宿泊も消費も変わらない。観光・自治体のSNSで最も多い相談がこれです。

①フォロワーが増えても宿泊が動かない状態

原因は、投稿が告知ばかりになっていることにあります。開催日、場所、料金、アクセス。公式が出す情報は正確です。ただ、正確な情報は来訪動機にはなりにくい。「知った」で終わってしまうからです。

地元住民の声も、観光客のリアルな体験も入っていない。この状態のアカウントは、フォロワーが何人になっても数字が事業側に流れません。

②動機をつくるのは、公式の情報ではなく他人の体験

人が「行ってみよう」と思う瞬間は、たいてい他人の体験を見たときです。地元の人が普段どこで何を食べているか。実際に行った観光客が何に驚いたか。この2つが入ると、告知が動機に変わります。

だから地域住民のUGC(ユーザー投稿)をどれだけ使えるかが、そのまま成果を左右します。公式が撮った写真より、住民が撮った1枚のほうが強いことは珍しくありません。

③この業種だけ設計が変わる4つの前提

民間企業と同じ感覚で運用すると事故になります。観光・自治体には、先に押さえておく前提が4つあります。

観点 内容
ターゲット層 観光客(県外・インバウンド)と住民で発信軸が分かれる
季節性 四季の風景・歳時記・地域イベントで年間カレンダーが組める
商品の可視化 風景・食・体験・人の4要素を組み合わせて発信する
コンプライアンス 公平性・政治的中立性・公金支出の説明責任

とくに公平性は、投稿を始める前に決めておく話です。特定の事業者だけを取り上げると、そこで問題になります。紹介する店舗・施設のローテーションルールを先に文書化しておいてください。詳しくは企業アカウントのガバナンスと承認フローの考え方が参考になります。

発信軸を3つに分ける

観光客に向けた投稿と、住民に向けた投稿を同じアカウントに混ぜると、どちらにも刺さらなくなります。軸を先に割ってください。

①観光誘致・シティプロモーション・住民向け広報

軸 ターゲット 発信内容 主要プラットフォーム
観光誘致 県外・インバウンド 絶景・体験・特産品 Instagram・TikTok
シティプロモーション 移住検討者 暮らし・子育て・仕事環境 Instagram・YouTube
住民向け広報 地域住民 行政情報・イベント・防災 LINE公式・X

住民向け広報はLINE公式とXに寄せます。防災や行政手続きは「届くこと」が最優先で、発見性を狙うプラットフォームとは目的が違うからです。

②プラットフォームの優先度

全部やらない。役割を分けて順番を付けます。

優先度 プラットフォーム 理由
第1 Instagram 絶景・食・体験の可視化に最適。海外観光客にも届きやすい
第2 TikTok 若年層誘致・地域イベントの拡散に強い
第3 YouTube 観光プロモーション動画の長期蓄積。検索流入が積み上がる

媒体そのものの選び方で迷っているなら、どのSNSをやるべきか|媒体の選び方4軸と比較表を先に読んでください。

③1アカウントで両方狙うと中途半端になる

観光情報と防災情報が同じタイムラインに並ぶと、フォロワーは何のアカウントか分からなくなります。分けるのが理想ですが、人手の都合で1本しか持てないこともある。その場合は投稿カテゴリを明示して、住民向けの回と観光向けの回をはっきり分けてください。

鉄板コンテンツ7型と、タビマエ・タビナカ・タビアト

毎回ゼロから企画すると続きません。内容と形式をセットで持って、順番に回します。

①7型は内容と形式をセットで持つ

型 内容 適した形式
1 季節絶景・自然風景 フィード(高解像度)
2 地域イベント・祭り告知 リール+ストーリーズ
3 特産品・郷土料理紹介 カルーセル
4 モデルコース・周遊提案 カルーセル(教育型)
5 住民UGC紹介(リポスト) フィード
6 観光施設・宿泊先紹介 リール
7 アクセス・交通情報 固定投稿

形式まで型に含めるのがポイントです。「祭りの告知をリールで」と決まっていれば、担当が代わっても品質が落ちにくくなります。

②告知は情報であって、動機ではない

動機は段階に分けてつくります。

段階 役割
タビマエ 動機形成。絶景・体験・特産品で行きたい理由をつくる
タビナカ 情報補強。モデルコース・アクセス・周辺情報で滞在を伸ばす
タビアト 口コミ拡散。UGCリポストで次の来訪者への動機に変える

この3段階が回り始めると、タビアトのUGCが次の人のタビマエになります。循環が生まれた地域は強い。逆に、告知だけのアカウントはタビマエの手前で止まったままです。

タビマエ・タビナカ・タビアトの3段階が循環する図。告知だけのアカウントはタビマエの手前で止まる

③典型的な施策パターンは5つ

  • 多言語アカウントの運用
  • インバウンド向けインフルエンサーの誘致
  • 訪日観光客の投稿をUGCとして再活用する
  • 季節の祭り・体験プログラムとキャンペーンを連動させる
  • タビマエ・タビナカ・タビアトの3段階発信

どれも単体では効きません。3段階発信を骨格にして、そこへ他の4つを乗せる形が現実的です。

KPIをフォロワー数に置かない

相場観がないと良し悪しの判断ができません。まずSNS内の目安を持って、その上に事業側のKPIを置きます。

①業種別KPIの目安

指標 目安
投稿頻度 フィード週3〜4本、リール週1〜2本、ストーリーズ毎日
保存率 5〜10%(モデルコース系は12%超えを狙う)
プロフィール遷移率 3〜6%
観光協会サイト遷移率 1〜3%
UGC(地域タグ投稿)月間獲得数 フォロワー1,000人あたり5〜10件

UGCの獲得数は全業種で見ても多い部類に入ります。地域には「行った」を投稿したくなる理由がもともとあるからです。ここが月5件を下回っているなら、住民や観光客が投稿しにくい設計になっていないかを疑ってください。

②SNS内の数字だけでは事業評価にならない

推奨KPI 取り方
来訪数 観光案内所・対象施設での実数
宿泊数 統計データ・宿泊事業者連携
消費額 観光協会・宿泊・飲食連携

どれもSNSの管理画面には出てきません。観光協会や宿泊事業者と数字を持ち寄る体制を、運用開始と同時につくっておきます。後から頼むと「なぜ出すのか」から説明することになります。

この数字を庁内や議会にどう説明するかは、経営層へのSNS報告|何を出せば納得されるかの型がそのまま使えます。

SNSで見る数字が事業で見る数字の内側に収まっている図。保存率や遷移率を磨いても来訪数・宿泊数・消費額は動かない

③単年度でフォロワー1万人だけを追うと、翌年に何も残らない

予算が単年度で切れる以上、年度内の成果と翌年度の継続は分けて設計します。フォロワー1万人達成だけを目標に置いた自治体は、翌年度に引き継ぐものがありません。数字は達成できても、来訪と経済効果につながらないからです。

観光庁の補助スキーム(地域観光新発見事業、地域一体型観光地再生事業など)を把握しておくと、年度をまたぐ設計が組みやすくなります。DMOが事業主体になるケースが多い点も織り込んでおいてください。

住民UGCの許諾フローと、地域カメラマン連携

UGCは最大の資産です。同時に、無断利用のクレームが最も多い領域でもあります。

①DM許諾からクレジット表記までの2段フロー

  • 地域タグの写真を無許諾でリポストしない。必ずDMで許諾を取る
  • 許諾後はクレジットを表記する。この2段をセットで運用する
  • 配給された体験をそのまま持ち上げただけのインフルエンサー投稿は、信頼度が下がる

「公式アカウントが紹介するのだから喜ばれるはず」という前提で進めると、削除要請が来ます。撮った人にとっては自分の作品です。手間ですが、1件ずつDMを送ってください。

②公金で外注した素材の二次利用範囲は契約で決める

撮影を外注したとき、納品された写真をどこまで使えるかは契約書にしか書いてありません。SNS投稿だけなのか、パンフレットやポスターにも使えるのか、期間はいつまでか。ここを曖昧にしたまま運用を始めると、担当者が代わったときに使えるかどうか誰も判断できなくなります。

③行政が撮りに行けない時間帯の素材をどう手に入れるか

早朝の霧、深夜の祭り、悪天候の海。役所の勤務時間では撮れない瞬間ほど、SNSでは強い素材になります。

地域カメラマンと継続的に組む仕組みをつくると、ここが埋まります。単発の発注ではなく、月いくらで何点という形にしておくと、素材が切れません。地元目線の被写体が入ってくる点も、公式が撮る写真との違いになります。

インバウンド対応と多言語運用

多言語は翻訳ではありません。国や文化の文脈に合わせて中身を組み替える作業です。

①刺さる題材は国で変わる

  • 中国・韓国向けはグルメ、コスメ、アクティビティ
  • 欧米向けは歴史、自然、体験
  • 投稿の頻度と時間帯も、各国のSNS利用ピークに合わせる

機械翻訳をそのまま出すのは避けてください。誤訳と、文化的に不適切な表現で炎上します。翻訳後は必ずネイティブの目を通す。ここは工数を削るところではありません。

②インフルエンサー誘致は段取りが決まっている

対象国は観光庁の重点市場(中国・台湾・韓国・米国・タイ・豪州など)から、自治体の特性に合わせて絞ります。探すチャネルは各国のローカルプラットフォームも含めます。中国ならWeiboや小紅書、韓国ならNAVERブログです。

招聘プログラムに入れるのは、交通費と宿泊費の負担、体験プログラムの提供、現地コーディネーターのアサイン。投稿条件には来訪前・中・後の3段階投稿、関係性の明示、二次利用の許諾を入れておきます。

予算は1名の招聘で数十万円規模から。複数名・複数国になると百万円を超えるのが一般的です。交通費と宿泊費だけでなく、インフルエンサーフィーとコーディネート費が乗ることを見込んでおいてください。

③自治体が招聘した場合もPR表記は要る

ステマ規制の対象は民間企業と同じです。自治体が招聘した場合も「PR」「自治体提供」などの明示が必要になります。「公的機関だから広告ではない」という整理は通りません。

招聘の契約書に、明示の方法と投稿タイミングまで書き込んでおくのが確実です。

公平性・中立性の制約と、陥りやすい5つの罠

自治体アカウントは行政機関として高い説明責任を負います。投稿1本で議会質問や住民監査請求の対象になりうる、という前提で組みます。

①自治体案件特有の運用制約

制約 内容
公平性・中立性 特定の店舗・宿だけを強くプッシュすると、公的機関が一民間事業者を優遇していると批判される
政治的配慮 選挙期間中・首長交代時期は、首長個人のPR色を控える
情報の正確性 営業時間・料金・アクセスは実情と一致させる
ステマ規制 自治体が招聘した場合もPR・自治体提供などの明示が必要

観光協会から自治体、外部監修者まで多段階の承認があるため、投稿1本のリードタイムは民間より長くなります。ここを前提に計画を組んでください。「今日の話題に今日乗る」運用は、この業種では成立しません。

②陥りやすい5つの罠

罠 症状 対処
特定事業者への偏り 人気店ばかり投稿し、議会・住民から公平性を指摘される 紹介ローテーション表を作り、月次で偏りをチェックする
トレンド便乗 流行ネタ投稿の直後に「税金で何をやっているのか」と炎上する 話題性と公益性のバランスを上長確認するルールを設ける
観光と住民広報の混在 観光情報と防災情報・行政手続きが混ざり、整理できない アカウントを分離するか、投稿カテゴリを明示する
UGC無断利用 地域タグの写真を許諾なしにリポストし、削除要請を受ける DM許諾からクレジット表記の2段フローを徹底する
担当者異動での品質急落 人事異動後にノウハウが消え、投稿頻度・品質が落ちる 運用マニュアル・投稿テンプレート・撮影ガイドラインを文書化する

最後の1つは毎年必ず来ます。引き継ぎの設計そのものは担当者交代でも崩れない運用|引き継ぎ設計が詳しいので、異動の内示が出る前に読んでおいてください。

③規制上の地雷と、SNSと相性が悪いケース

  • 特定事業者への利益供与と見られる投稿は、地方自治法違反のリスクがある
  • 特定の政党・候補者を支持する投稿は公務員法違反になる
  • 災害・事故・感染症の発生中に観光誘致投稿を続けると、批判の対象になる
  • 著作権・肖像権の無許諾使用は損害賠償リスクにつながる
  • 過去投稿が後年の社会情勢で問題視されることへの対応指針を持っておく

自治体アカウントの過去投稿は、議事録と同じ公文書として扱われる場合があります。削除・修正の履歴を内部で残す運用にしてください。

そもそも相性が悪いケースもあります。観光資源が極端に限られる小規模自治体は運用コストに見合いません。高齢化が極度に進んだ自治体は、ターゲット層がSNSを使っていない。議会や上層部の理解が乏しい組織では、投稿のたびに承認待ちで止まります。災害復興期の地域では、観光誘致の投稿が住民感情とぶつかります。

投稿してしまった後の初動は炎上・誤投稿・なりすまし|初動対応の型にまとめています。

④投稿前に見る6項目

  • 紹介する店舗・施設を地域内でローテーションするルールを文書化しているか
  • 公平性確保のため、特定事業者の連続紹介を2〜3か月空けているか
  • 住民UGCを使う際に必ずDMで許諾を取り、クレジットを表記しているか
  • イベント告知で主催者・後援・協賛の関係を正確に表記しているか
  • 政治的・宗教的に中立を要する話題は、事前の上長確認を必須にしているか
  • 月次で特定事業者に偏っていないか、投稿一覧を棚卸ししているか

観光・自治体のSNS運用でよくある質問

①告知は出しているのに来訪が動かない。何を足すか

地元住民の声と、観光客のリアルな体験を足してください。告知ばかりのアカウントは情報として正確でも、来訪動機にはなりません。UGC活用と住民参加型の企画を入れ、タビマエ・タビナカ・タビアトの3段階で発信を設計し直します。

②「日本一」「絶景」といった表現は使えるか

観光業界では一般的に使われますが、明確な根拠(調査機関・期間・条件)があるほうが望ましい表現です。客観性のない「日本一」は、他自治体との論争に発展しやすくなります。根拠を示せないなら、別の言い方に置き換えてください。

③自治体が招聘した場合も関係性の明示は要るか

要ります。ステマ規制の対象は民間企業と同様です。自治体が招聘した場合も「PR」「自治体提供」などの明示が必要になります。投稿条件には、来訪前・中・後の3段階投稿と二次利用の許諾も含めておいてください。

④インバウンド向けはどの言語から始めるか

歴史的に来訪が多い国・地域から優先します。中部圏なら中国・台湾、関西圏なら韓国・中国、北海道なら台湾・タイといった具合です。感覚で決めず、観光庁の宿泊統計を参照して決めてください。

⑤他業種の設計も見ておきたい

業種が変わると、前提もKPIも変わります。教育・スクールのSNS運用やアパレル・ファッションのSNS運用と並べて読むと、観光・自治体の制約がどこだけ特殊なのかがはっきりします。

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